1、日本紋様の起源と発展
日本ではかつてから様々な芸術形式が現れてきて、その造形、図案、色彩、構図などの多くの要素は例外なく「オリジナル」や「民族化」という特性を持って、それに基づき紋様の発展に必要なヒントを提供した。その発展過程は以下のとおりである。
(1)縄紋時代から古墳時代までの主な紋様は忍冬や巻き草などのような植物であり、その後には動物を主なテーマとして人、馬、鳥、獣などのような紋様が徐々に出てきた。それは自然風景に対する古代人の体験および素朴な審美心理による産物である。
(2)仏教の輸入は紋様の発展に「意境」という精神的意味を注入した。両漢時期、仏教はインドから中国に伝わり、そのあと150年余りを経て百済から日本に輸入されて仏教の東伝過程が完了した。この時、日本は飛鳥文化の最盛期にあって、さらに仏教からの影響の拡大化に伴い日本の紋様には仏教的な意味を持つ「蓮花」や「雲」が生まれてきた。そうしたことで世俗観念に対する新たな認知が生み出されたと同時に、「自然を注視し、自然に触れ、自然を捉える」という審美感および「意境」に関する体験も形成した。そして宗教改革と大化改新の影響で、日本は中国の仏教や儒学だけでなく六朝時代の道家思想などを吸収し、そうしたことで飛鳥文化は六朝文化の影響にあって三教融合の特徴を持って、紋様の発展も初めて全盛期に入った。
(3)日本文化の初めての全盛期(約750―850年)には、中国からの唐文化の影響をきっかけに日本はインド文化を受け入れた。その時期、中国に派遣された僧侶は多彩な唐文化を日本に持ち帰り、日本文化の繁栄に大きな役割を果たした。そのほか、その過程に中国からのいろんな紋様形式や内容が参考になって、日本の紋様文化に変化感および柔軟感のある紋様をもたらしてきた。平安時代に入ってから自然景色の紋様は発達期にあった。この時期、日本の首都は京都に移動し、そうした背景で日本ならではの自然景色の紋様が生まれてきた。
(4)鎌倉時期、日本の伝統的な紋様は菊を主にして、さらに一般的な単純な描写ではなく垣根の中に咲いている菊の姿が紋様の題材になって、以前とは異なり写実主義に傾いたことが明らかになる。そのほか牡丹と蝶との紋様によって異なる紋様を有機的に結合させるのもよく見られる。
2、紋様タイプ
2.1、自然元素の紋様について
日本の紋様において縄文時代から竹管紋様、貝紋様、隆起紋様などが現れてきて、これらの紋様は日本で自然に生まれた産物である。そして日本の着物が誕生してから、自然風景の紋様が現れてきた。日本の地理環境はその四季の変化がはっきりとして、春には桜と梅、夏には菖蒲と水草、秋には紅葉と菊、冬には雪景色と松柏、それらのような季節性のある植物や景色が紋様の創造に参考になった。季節ごとの紋様や色彩が着物で表現されており、様々な自然景色の紋様で着物ならではの美感を表現することができる。大自然の色彩と景色が伝統的な衣装に溶け込み、着物と自然の調和で今のような着物が生まれた。大和民族の自然に対する畏敬と崇拝は、日常生活に溶け込みつつあり、次第に独特の自然観を形成した。
2.2、吉祥紋様について
かつてから、幸せになるという願いを紋様に託したことがあり、それが吉祥紋様である。「吉祥」とは『よい前兆』という意味で、中国に生まれたその吉詳紋様は、平安時代にはすでに日本的色彩も見られ、江戸時代には大きく発展してきた。着物の文様は吉祥の気配を秘めているとされて、鶴亀・菊などの紋様は健康を意味し、葡萄瓜・唐子などの植物文様は後代繁栄を意味する。そのほか桐・麻などの紋様は子供の成長をいのる。このように、人々は着物の紋様によってより良い生活になるよう祈っている。
2.3、紋様の中国的元素
八世紀の中国は唐時代(日本の平安時代)に入った。日中両国の経済・文化交流に伴い、中国の唐装が日本に伝わって着物に大きな影響を与えた。日本の天皇は、全国の老若男女を問わず唐装を着ることを宣言した。日本の模様の大きな部分は中国の唐服紋様からの影響を受けて、そのため日本の染織文化は中国の影響で発展したと言っても過言ではない。日本の伝統的な紋様から唐服の影響は随所に見られ、そして日本の現代的な紋様の中にも依然として前に述べた影響の痕跡が見つかっている。多くの中国紋様が日本に伝来した後、一定の歴史時期にその名称、形式および意味を現状のままに維持していた。例えば飛鳥時代(538~710年)に伝われた間道、奈良天平時代(710~794年)のぼかし、狩猟、雲紋、麒麟、青龍、白虎、朱雀、玄武、平安時代(794~1192年)の雲鶴紋、室街時代の亀甲や花柄、これらの紋様は今でも日本で広く運用されている。
2.4、日本の特殊な紋様——家紋
「家紋」とは、日本の家系に代々伝われる紋章で、また「紋」、「家紋」とも呼ばれている。家紋は平安時代に最初に現れ、当時貴族は自分の特殊な地位や家柄を示すのに流行していた花、鳥、魚、虫、孔雀、蝶、牡丹、唐草、団扇、亀などの紋様から自分の好きなものを選んだのち自宅の車や家具、服装の装飾紋様として使っていた。その後、それらの紋様が固定の形式で繰り返し使用され、家紋として維持されていた。日本の家紋は中国の家系図のように家柄を象徴しており、また家紋は“社会の統一に必要な力”という家族的意識を強化する手段の一つとして、家族全員をまとめるという効果を効いていた。家族全員が自宅の家紋を身の周りのものにつけて、そして家紋のある服や什物で相手の家族を知ることができる。そうしたことで、個人的行為により家族の名誉を汚すことを避けるに注意して家規を守るよう自分を要求することもできる。
3、紋様の現れた日本文化
3.1、自然を尊ぶ国民性
日本の着物の紋様は動物・植物で表現することが多く、それは自然を単純に描くのではなく、自然に対する崇拝と叙情をもって静謐な美感を表現することが求められている。日本文化は自然植物の美に深い愛情を持って、日本人が信奉する神道教も自然を神格化し、自然に依存して生まれた島国にとって、自然がなければ日本文化が生まれることができず、そのため自然への崇拝は大和民族に深く繋がっている。日本は「万物有霊」という思想を持っている島国で、山川草木に「九百万神」と呼ばれた神様が宿っており、そして人体の様々な器官にも対応する神様が存在するとされた。大和民族は同様に太陽と月の神様を信仰し、前者は「天照大神」で後者は「月輪女神」と呼ばれている。すべての自然の神は太陽と月の神様に恵まれており、そのような物語によって自然に対する日本人の感謝の気持ちを表している。
3.2、伝統文化に対する継承性
日本の美術史にはさまざまな紋様があり、構図の変化および色彩の組み合わせにオリジナルな審美感がはっきりと見られる。それらの紋様は、唐の審美感を参考にした日本文化の発展および継承という顕著な民族的特性を持っている。日本の伝統的な紋様の意味は時代の流れに伴い新たな発展を遂げるにもかかわらず、伝統性を放棄せずそれに基づき改革を行っていたと考えられる。そして時代の発展につれて日本の伝統的な紋様は現地の文化と融合して異なる時期の伝統紋様の設計を実現した。例えば、日本の伝統的な紋様は昔ながらのイメージを簡単にコピーするのではなく現実生活に基づた再創造の具体的な表現方法で、このように創造されたイメージには人々の想像と美感が含まれて深い意味や優雅な気品を持っている。それはすべて芸能人たちの無限の知恵を代表している。
3.3、日本人の素朴で上品な美意識
日本列島は独自の地理的特徴を持っており、そのため一定の空間に閉じ込められて近代にいたってから開港し始めた。大陸から遠く離れた日本列島は季節の変化が顕著であるので季節に対する敏感性が中国より高くなってきた。言い換えれば、日本人は精神面の「素朴さと幽玄さ」を重視している。また、日本列島は地質構造が複雑で地震火山が頻発して、そのような不安定な島国生活で人々は常に自然災害に備えており、そのため思考が繊細で精巧な大和民族が育まれてきた。芸術形式にも前に述べた精神面の影響が及んでいる。日本の伝統的な紋様表現には、繊細な線条および色彩で物悲しさや幽玄さを味わうことができる。日本の伝統的な着物の紋様は様々な題材と色彩の組み合わせで独特の美的情緒を表現して、簡単に言えば大和民族の審美性は繊細で、深い意味のある美しさなどの特徴をもっている。
おわりに
この論文は着物紋様の発展史と種類、そして着物紋様に含まれた日本文化をめぐって論じようとする。着物の紋様は文化形態として日本の各時代の歴史を貫いており、そのため紋様の発展および変化から着物紋様の歴史軌跡を窺い、さらに日本の文化や美意識の変化も掘り出すことができる。新要素との融合で着物の紋様が変わっており、それは側面から社会の発展状況や人々の思想の変遷を反映することができる。着物の紋様は、その起源は孤立されたものではなく、外国との交流による動態的な発展で着物の紋様は不足から完璧までの過程を経て、中国文化と唐服からの影響で最後に民族的色彩に富んだ紋様芸術を遂げた。
参考文献
[1]橋本澄子(2005),『図説着物の歴史』,河出書房社
[2]文学ファッション研究会(2005),『むかしのおしゃれ事典』,青春出版社
[3]中島梓(2006),『着物中毒』,ソフトバンククリエイティブ
[4]きくちいま(2003),『ふだん着物のたのしみ方』,河出書房新社
[5]泉二宏明(2007),『きものまるわかり BOOK』,淡交社
[6]日本繊維新聞社編集局(2005),『繊維 20 世紀の記録(繊維ファッション年鑑 2000 年版)』,新聞出版社
謝辞
まずは、研究の結果がなかなか出なかった私を最後まで粘り強く指導してくださった〇〇指導教官に深く感謝の意を示します。またゼミの中で切磋琢磨したゼミ員にも感謝をいたします。今回の卒業論文では多くのご支援・ご協力のおかげで自分の納得のいく結論を出すことができました。卒業論文制作にあたり、関係してくださった全ての方に厚く御礼を申し上げ、感謝の意を表します。