Ⅰ はじめに
近年、日本の大学の研究面における国際競争力の低下が指摘されている。しかし、日本は「技術立国」と言われ、科学技術力で高度成長を支えたともいえる。だが、高度成長を牽引した大半は、連続的イノベーションによって画期的な新製品を開発し、市場に送り込んだ製造業を中心とする民間企業である。つまり、日本の科学技術力は民間企業の研究開発によるところが大きく、大学側の科学技術発展への寄与は、民間企業のそれと比べて見劣りする感が否めない。
この問題の背景には、研究費に占める政府予算の割合の低さがあげられる。日本での研究費の総額は2002年度で16.5兆円であり、アメリカの36.6兆円と比較すると、約半分であり、ヨーロッパ諸国とほぼ同水準にある。しかし、研究費の負担割合(図1)を見ると、日本の政府負担は2割強であり、欧米に比べ低い割合となっている。さらに、日本においては大学と企業の間の連携が希薄であり、全体の8割弱を占める民間の研究費は、企業内での研究開発にあてられており、大学側には殆ど還流されていないのが実状である。日本の大学が研究機関として、世界を牽引できない背景には、研究のための資金が大学に十分に与えられていないことが考えられる。
こうした中、文部科学省は「今後50年間で日本のノーベル賞受賞者を30人に増やす」という科学技術基本計画を立てるなど、科学技術振興策を推進している。この政策を背景として、各大学に研究費として配分される科学研究費の額は、緊縮財政が叫ばれる中でありながら、年々増加している。
ここで重要なことは、科学研究費は各研究機関の能力に従って配分されるべきものであり、大学名や学閥といった研究とは結びつかない要素によって判断されるものではないということである。しかし現状では、旧帝国大学をはじめとする国立大学へ、科学研究費の配分が偏重している。この状況の下では、私立大学や公立大学には十分な研究資金が配分されず、そこでの人材や設備を最大限に活用できなくなることが危惧される。一方で、旧帝国大学をはじめとする国立大学に対しては、それほどの研究成果を出さなくても研究費が十分に配分され、配分された研究費に対して十分な成果を出そうとするインセンティブが起こらなくなるというモラルハザードを引き起こす可能性もある。
また、2004年度から国立大学が独立行政法人化し、科学技術における産学連携も進むことが予想され、各大学は、自分たちの研究資金を自己調達する努力が求められる。より多くの研究資金を集めるためには、限られた研究費の中でより多くの研究成果をあげる必要があるのではないだろうか。
そこで本稿では、文部科学省及び日本学術振興会から研究資金として配分される科学研究費が、適切に配分され、大学は効率的に研究成果を出しているのか、そして、効率性を左右する要因は何であるのか、という二点を問題意識として、各大学の科学研究費に対する研究成果の効率性を考察し、そして、その効率性に影響をもたらす要因を分析した。
本稿の構成は以下の通りである。
Ⅱでは、科学研究費の現状を述べる。ここ数年、科学研究費が増大している背景として、TLOの設置による産学連携の推進や、21世紀COEプログラムなどの、文部科学省主導の科学技術振興策について取り上げる。
Ⅲでは、日本における公的研究費の現状について触れた「大学の公的研究費の日米比較」(竹内,2003)、及び国立大学と私立大学との間における科学研究費の配分格差を問題として取り上げた「大学の科学研究費の官民格差 日本の科学界のレベルアップのための構造的課題」(竹内,1999)の2つの先行研究を紹介する。
Ⅳでは、効率性分析として用いるDEAの理論説明と、回帰モデルのひとつであるTobit回帰の理論説明を行う。
Ⅴでは、実際のデータを用いて実証分析する。本稿では、大学を、資金と人的資本を投入することによって研究成果を生み出す事業体として考える。医学系分野が科学研究費配分で大きな割合を占めることから、分析対象を医学系分野に絞り分析を行う。はじめに、大学へ投入される資金として科学研究費、人的資本として教員数を用い、そして産出される研究成果を論文数、及び論文被引用数として、DEAで効率値を算出し、効率的、非効率的と判断された大学から効率性にはどのような傾向があるのかを考察する。次に、DEAで算出された効率値を被説明変数とし、医学系教員一人あたりの医学系学生数、医学系教員一人あたりの医学系大学院生数、研究に用いられる外部資金と科学研究費の合計に占める科学研究費の割合、医学系教員一人あたりの科学研究費採択件数、医学系教員一人あたりの図書館蔵書数、論文あたりの論文被引用回数、ダミー変数として、教員公募制を採用している大学ダミー、旧帝国大学ダミー、旧帝国大学以外の国立大学ダミー、私立大学ダミーを説明変数として、Tobit回帰を用いて分析を行い、研究活動の効率性に影響を与える要因を分析する。
Ⅵでは、Ⅴでの分析結果を踏まえ、大学の種別ごと(旧帝国大学、旧帝国大学以外の国立大学、公立大学、私立大学)での投入、産出の過不足を考慮し、傾向を分析する。そして、効率値を左右している要因が何であるかを指摘し、効率的に研究成果を出すために大学側が何をするべきか、また、各大学が効率的に研究成果を出すための今後の科学研究費のあり方を提言していく。
Ⅱ 科学研究費を取り巻く現状
1 研究促進の様々な政策
大学を中心として行われる学術研究は,基礎研究から産業・経済の発展につながる実用的研究まで幅広く含んでおり、科学技術の中核を成している。また、学術研究は、新しい法則や原理の発見、分析手法の確立、新しい技術や知識の体系化、先端的な学問領域の開拓などを目指して行われ、その成果は科学技術の発展の基盤となっている。各国の科学技術の国際競争が進む中、学術研究は、社会や国家の存続や発展の基盤となるものであり、その振興は国の重要な責務であるといえる。また、未知なるものの探究、すなわち知のフロンティアの開拓は、一国の枠を越えて世界全体への貢献が期待されるものでもあり、国際社会でしかるべき役割を果たす観点からも、国が中心となってその振興に努めるべきである。こうした中、我が国では、科学技術創造立国を目指して、活力あふれる豊かな社会を実現し、国際社会においてその地位にふさわしい役割を果たしていくために、科学技術振興策を積極的に行っている。
例えば、国は、大学や国立研究機関の研究成果の産業界への効率的な移転を目的として2000年8月に「大学等技術移転促進法」を施行した。大学や国立研究機関は、この法律に基づいて文部科学省・経済産業省の承認を受ければ、産業基盤整備基金による助成金の交付や「産業活力再生特別措置法」に基づく特許料の軽減措置などの支援措置を受けることができるようになった。その後、大学関係者らによって相次いでTLOが設立された。TLOとは、大学や国立研究機関の内部、もしくは外部の組織として設立され、大学や研究所における研究成果の産業界への橋渡しを円滑に進めるための機関である。大学や国立研究機関の研究成果の中から、実用化の可能性があるものを発掘し研究者に代わって特許を取得する。一方で、そうした技術を製品開発などに活用できそうな企業を探し出し、ライセンス契約を結び、企業からの特許の実施料収入を大学や研究機関、研究者個人などに配分する。研究室に眠っていた技術を積極的に活用することによって、新しい産業や事業を生み出す機会ができ、TLOを通じた技術移転によって、新製品の開発に乗り出すベンチャー企業も出始めている。また、収益の一部を研究者らに還元することで、大学での研究活動がより活性化し、産学連携をいっそう促進することができると期待されている。
また、文部科学省では、2002年度より21世紀COEプログラムを実施している。21世紀COEプログラムとは、「大学(国立大学)の構造改革の方針」(2001年6月)に基づき、文部科学省に新規事業として「研究拠点形成費補助金」が措置されたものであり、我が国の大学の教育及び研究水準の向上や世界をリードする創造的人材の育成を目的としている。このプログラムによって競争的環境を醸成し、学問分野ごとに世界的な研究教育拠点の形成を重点的に支援することにより、活力に富み、国際競争力のある世界最高水準の大学づくりを推進することを目的としている。
2 科学研究費とは
1の背景から、文部科学省及び日本学術振興会から、大学や国立研究機関に科学研究費が配分され、その額は年々増加傾向にある。科学研究費補助金の予算額は、1993年度には736億円であったが、2003年度には約1765億円と、約2.4倍に増加している(図2)。
科学研究費は、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野において、優れた独創的・先駆的な研究を発展させることを目的とし、文部科学省及び日本学術振興会から大学や研究機関に配分される。科学研究費の募集枠は金額によって複数のカテゴリーに分かれており、個人で申請するものから複数の研究者で申請するものまで、様々なケースに対応している。そして、研究者から申請された研究課題の中から、厳正な審査を経て、優れた研究を選択して支援しており、我が国の代表的な競争的研究費であるといえる。また、将来への発展可能性を秘めた萌芽的研究や若手研究者の優れた着想による研究にも配分されており、大学や研究機関における研究者や研究グループの自由な発想に基づく多様な学術研究をいっそう推進する上で、不可欠なものとなっている。同時に、科学研究費は我が国の研究基盤を形成するための基幹的な資金として定着しており,我が国から世界に発信している多くの優れた学術研究成果を支えている。大学においては、科学研究費による研究に大学院学生を含む若手研究者等が参加することが、研究者や高度な職業人養成の観点からも極めて有意義となっている。
また、科学研究費は我が国の競争的研究資金の大半を占めており、大学や国立研究所における学術研究にとって非常に重要な資金源のひとつであり、研究費の配分が研究の質や量を左右する大きな要因のひとつといえる。
3 科学研究費配分の現状
分野別の科学研究費の配分額を見ると、「医学を含む生物系」だけで約5割を、さらに、「理工系」で約4割を占め、「人文・社会系」が1割となっており、全体の約9割を理系が占めていることがわかる。さらに、大学別の採択件数や配分金額を見ると、その多くを旧帝国大学をはじめとする国立大学が占めている(図3)。例えば、2003年度の科学研究費の配分状況は、全体の約7割が国立大学に配分されており、私立大学、公立大学、研究所などに配分される科学研究費は合計しても全体の3割足らずとなっている(図3)。これは、科学研究費がそもそも国立大学の研究資金として導入されたという歴史的経緯によるものであると考えられる。しかしながら、科学研究費は税金を使っている性質上、配分対象を国立大学に絞る必要はないと言える。私立大学や公立大学、研究所であっても、国立大学と同程度、あるいは国立大学以上の研究成果を出しており、世界的に注目されているケースも少なくない。こうした事実にもかかわらず、大学によっては、十分に科学研究費が配分されていないために資金面での制約がかかり、本来の能力を十分に発揮できていない場合もあるのが現状である。
このように、研究のための重要な資金である科学研究費の配分に関しては、十分に思案した上で公平になされているとは言えず、生産性の面から見ても、非効率的であると言えるであろう。こうした現状を踏まえ、以下では、大学の生産性の観点から、効率的な科学研究費の配分について分析するとともに、大学の生産効率性にはどういった要因が影響を与えているのかを考察していく。
Ⅲ 先行研究
日本の科学研究費のあり方について述べている先行研究として、科学研究費の総額や配分を日米間で比較した『大学の公的研究費の日米構造比較』(竹内,2003)、そして、日本国内における国立大学と私立大学の間における科学研究費の格差を問題として、効率的で望ましい研究費配分のあり方について提唱している『大学の科学研究費の官民格差』(竹内,1999)があげられる。
竹内(2003)は、アメリカの公的研究費は2兆円に上るのに対し、日本の公的研究費のうち大学に配分される額は、その他の省庁の資金を加えても2400億円程度であり、日米間で8倍の格差があることを指摘している。また、日本の大学で100億円以上の公的研究費を受けているのは4大学なのに対して、アメリカでは70校近くに上っている。この現状を受け、竹内は、日本の大学の競争力を高めるためには、しばしば問題視される研究者の独創性よりも、研究への投資額を第一の問題とすべきであると主張している。
竹内(1999)は、国立大学と私立大学における人員構成の観点から、私立大学の教員数が約70,000人であるのに対して、国立大学は60,000人、学生数では、私立大学1,980,000人に対して国立大学は620,000人となっており、国立大学以上の研究者を抱える私立大学の影響の大きさを示している。
その上で、大学への研究費に関連して、大学への研究費の中で、最も影響力と透明性の高い科学研究費を取り上げ、各大学への科学研究費の配分額及び採択件数を分析している。科学研究費のうち、日本学術振興会からの配分先は、国立大が73%、私立大学が14%であり、先に述べた国立大と私立大の人員構成を考えると科学研究費の配分が旧帝国大学をはじめとする国立大学に大きく偏重していることを指摘している。
続いて、研究成果としての論文数の構成比を示している。論文数については、米国のThomson ISI社が提供している引用統計データベースを集計することによって得られる各大学の論文数のうち、全分野における上位50位までの論文数を用いている。上位50校のうち私立大学は10校しかランクインしておらず、私立大学の論文数の多くが抜け落ちているものの、上位50校に限れば、国立大学は私立大学の8.3倍もの論文数を産出しているという結果を得ている。
また、科学研究費と論文数の関係(図4)を見ると、科学研究費と論文数には強い相関関係があることが分かる。図の右上にあるのは旧帝国大学と東京工業大学であり、その他の大学は左下に集中している。つまり旧帝国大学を中心とする大学は、科学研究費が多いので論文数も多くなっているのに対し、その他の大学では科学研究費が少ないために、論文数も少ないことが考えられる。一方で、科学研究費と論文数が著しく多い旧帝国大学を中心とする大学は、科学研究費の額に対し、論文数が逓減する傾向が見られる。科学研究費あたりの論文数を見ると、私立大学をはじめとする科学研究費の少ない大学は、旧帝国大学の2~3倍に達しており、配分される科学研究費が多くなりすぎると、科学研究費あたりの論文数が減少する傾向にあることがいえる。
以上の分析から竹内は、日本の大学の競争力を上げるには、私立大学への科学研究費の配分ウェイトを上げるべきだという主張を展開している。実績がある旧帝国大学に、重点的に資金を配分しても、各大学の研究員の数が限られている以上、すでに研究費に対する論文数が頭打ちになっているため、配分された科学研究費に見合った論文数を産出できないと考えられるからである。逆に、私立大学は、現在配分されている科学研究費が少ないため、科学研究費を現在より多く配分すれば、それに見合った論文数を算出できると考えられるとある。私立大学には国立大学をしのぐ教員がおり、研究成果を出す潜在力があると考えられるため、私立大学への科学研究費配分額を増やし、私立大学の人材を活用することを提言している。
Ⅳ DEAとTobit回帰の理論説明
本稿では、研究面からみた大学の生産性を分析するため、はじめにDEAを用い、次にTobit回帰を用いることによって分析をする。まず、大学の効率性を比較する分析手法であるDEAについて説明する。次に、大学の生産性効率に影響を与える要因分析をするために用いるTobit回帰について説明をする。
1 DEAとは
DEA(Data Envelopment Analysis 包絡分析法)とは、1978年にCharnesとCooperによって、企業の経営効率性の評価手法として提唱された経営分析手法である。一般に事業体の活動は、資源を投入し便益を産出する変換過程とみることができると考えられる。DEAの基本的な概念は、分析対象となる事業体の効率値を

で定義し、さらに、事業体の効率値が0から1の間になるようにこれを設定する。また、DEAでは、1つのインプットに対する1つのアウトプットの効率を測るだけではなく、インプット、アウトプットともに複数とることが可能である。
具体的には、
をインプット、インプットにつけるウェイトを
、
をアウトプット、アウトプットにつけるウェイトを
とし、n個の事業体のうちk番目の事業体の効率値
は、以下のように表され、DEAでは効率値を最大にするようなウェイトを各事業体について求め、事業体の効率性を相対比較する。
(1) 


次にDEAの代表的なモデルのひとつであるCCR(Charnes-Cooper-Rhodes)モデルと、BCC(Banker-Charnes-Cooper)モデルの説明をする。まず、最も基本的なモデルであるCCRモデルについて説明する。n個の事業体のうちk番目の事業体の効率値は、(1)と同値である以下の線形計画(Linear Programming,以下LP)を解くことで求められる。
(2) 


(i=1,2,…,m)はインプット、
(r=1,2,…,s)はアウトプット、jは各事業体、
はベクトルを表す。このLP問題の最適目的関数値を
とし、これが効率値である。次に、BCCモデルの説明であるが、BCCモデルの最適解は(2)式に
という制約条件を付け加えたLP問題を解くことで求められる。
説明してきたCCR、BCCモデルは、当該の活動の産出を最小限保証した上で、投入を最小にする活動を求める入力志向モデルである。それに対して、CCRO、BCCOモデルは、現状の投入を前提として、期待できる最大の産出を達成している事業体を求める出力志向モデルである。CCROモデルの最適解は次のLP問題を解くことにより求められる。
(3)


は
同様ベクトルを表す。BCCOモデルの最適解は(3)に
という制約条件を付け加えたLP問題を解くことで求められる。
こうして得られた効率値が1となる事業体群を効率的フロンティアという。図5にCCRモデルとBCCモデルの効率的フロンティアのモデル図を示した。CCRモデルでは、規模に対する収穫が一定であると仮定されているので、効率的フロンティアは原点とIを通る直線となり、その内側に存在する他の事業体は非効率な事業体となる。BCCモデルでは、規模に対する収穫が可変であると仮定されているので(
)、収穫逓増部分、収穫一定部分、収穫逓減部分の曲線的なものとして描かれる。図ではI,E,Gが効率的な事業体となり、他の事業体は非効率的な事業体ということになる。DEAではその非効率な事業体が効率的フロンティアに移行する道を探ることになる。改善するにあたって重要なことが、現在の入力の余剰、出力の不足である。今、ある事業体kの入力の余剰
出力の不足
を次により定義する。




効率化の改善案としては、最適目的関数値
を得た後に
を変数として、まず次のLP問題を解く。




この最適解
を用いて事業体kの改善のための一つの指針をしめすと、

となる。すなわち、インプットを
倍に縮小し、さらに余剰を除去し、アウトプットに不足分を追加すれば効率的な活動になることを意味している。ただし、この改善案は複数ある改善案の一例にすぎないことに注意が必要である。
2 Tobit回帰とは
Tobit modelは、1958年にTobinによって負の値をとることができない耐久消費財への支出の分析をする際に初めて用いられた。Tobit回帰とは一般の回帰とは異なり、分析対象とする被説明変数
がある条件を満足した場合のみに観測することができるモデルを推定する場合に用いる回帰分析の1つである。最も基本的なモデルは被説明変数
が負の値をとることができないモデルで、
が



で与えられるものである。
は説明変数の
次元のベクトル、
は対応する
次元の未知パラメータのベクトル、
は誤差項である。このモデルにおいては通常の最小二乗法による
の推定はできない。なぜなら、
の観測値が除外されているために、
の分布は「切断された正規分布」になり、誤差項
の期待値が0にならないためである。そこで、最小二乗法ではなくTobit最尤推定量が
の推定に用いられる。
Ⅴ 実証分析
ここでは、Ⅳで説明したDEAとTobit回帰を用いて、大学の生産活動の効率性を定量化し、その効率性の違いがどのような要因によってもたらされるか分析を行う。まず、DEAに用いる変数として、論文数、論文被引用回数、科学研究費、医学系教員数を用い、CCR、CCRO、BCC、BCCOの各モデルを用いて各大学の効率値を求める。次に、その各効率値を被説明変数としたTobit回帰によって各大学の効率性に与える要因分析を行う。図2にあるように、科学研究費配分割合の約半分を生物・医学系が占め、かつ、分析や集計可能なデータの関係上、本稿では分析対象を医学系分野に絞った。Tobit回帰に用いる説明変数として、医学系教員一人あたりの医学系学生数、医学系教員一人あたりの大学院生数、研究に用いられる外部資金と科学研究費に占める科学研究費の割合、医学系教員一人あたりの科学研究費採択件数、医学系教員一人あたりの図書館蔵書数、論文数に対する論文被引用回数の割合、ダミー変数として、教員公募制を採用している大学ダミー、旧帝国大学ダミー、旧帝国大学以外の国立大学ダミー、私立大学ダミーを用いた。そして、それらの変数を用いてCCR&CCRO( CCRとCCROは効率値が同じであったため)、BCC、BCCOの3つのケースでTobit回帰を行った。
1 データの出典とその扱い
論文数、論文被引用回数は、Thomson ISI社の協力を得、 ESI(Essential Science Indicators)から集計した。ESIとは、学術分野を22分野にわけ、それぞれの分野において世界の大学の「10年累積+current year」の論文数、論文被引用回数の上位1%に入る大学をまとめているデータベースである。本稿で用いる論文数、論文被引用回数は1993.1-2003.6データであり、Tobit回帰を用いて分析する際のデータの関係上、ESIの22分野のうちのひとつであるClinical Medicineから日本の大学を抽出した。
科学研究費、科学研究費採択件数は、平成5年度版から平成12年度版のぎょうせい「文部省科学研究費補助金採択課題・公募審査要覧(上)」、「文部省研究費補助金採択課題・公募要覧(下)」、平成13年度版、平成14年度版のぎょうせい「文部科学省科学研究費補助金採択課題・公募審査要覧(上)」、「文部科学省研究費補助金採択課題・公募要覧(下)」を用い、Thomson ISI社のClinical Medicineのfield definition(表1)と科学研究費補助金系・部・分科細目標(表2)が一致する、内科、外科、歯科、薬学を医学系学部として集計した。また、科学研究費研究種目(表3)に関して、本稿で集計した研究種目(表3の※のついた種目)以外の残りの研究種目は、データの集計が困難なこと、配分額が少ないため影響は少ないことの2つの理由より、集計から外した。さらに、10年分のデータを集計した点に関しては、ESIから得られる論文数、論文被引用数のデータが「10年累積+current year」であること、通常、研究開始から成果が出るまでの期間が単年とは考えにくいことを考慮したからである。
各大学が研究に用いる補助金として科学研究費以外に外部資金も考えられ、ESIから得た論文数、論文被引用回数データをそのまま用いると全補助金に対するアウトプットになってしまうので、本稿では、外部資金を含める全補助金の中で、科学研究費が占める割合を算出し、論文数、論文被引用数にかけることで、科学研究費に対する論文数、論文被引用回数とした。外部資金は、朝日新聞社編「大学ランキング95」から「大学ランキング2004」の中に記載されている外部資金(奨学寄与金額、受託寄与金額、共同研究費)のデータを集計した。
医学系教員数、医学系学生数、医学系大学院生数、図書館蔵書数は、ESIから得た大学にあわせ、朝日新聞社編「大学ランキング95」から「大学ランキング2004」までを用いて集計した。医学系教員数は、医学系学部の教授数、助教授数、講師数を集計し、合計した。医学系学生数は医学系学部の学生数を集計した。また、医学系大学院生数については、医学系学部の修士過程及び博士課程に在籍している学生数を集計した。図書館蔵書数も「大学ランキング95」から「大学ランキング2004」までを用いて集計した。
教員公募制ダミーは、各大学が教員を公募制を採用しているかを各大学のホームページで調べた。
2 DEAによる大学の効率性分析
本稿では、インプットに科学研究費、医学系教員数、アウトプットに論文数、論文被引用回数をとり、以下のモデルを用いて大学の医学系学部の生産効率をみていく。なお、サンプル数は70大学である。




ここで、インプットの科学研究費は資金面、医学系教員数は人的資本面という視点から用いた。また、アウトプットの論文数は大学の生産性、論文被引用回数は論文の質をみるものとして用いた。
3 Tobit回帰を用いた効率性に与える要因分析
2で分析した効率値を被説明変数としたTobit回帰を用いて、効率性に影響を与える要因分析を行った。なお、CCR、CCROモデルで効率値や順位に変化がみられないことからCCRとCCROモデルはひとつのものとしてみた。分析モデルは以下のようになる。



医学系教員数一人あたりの医学系学生数は、教員が学生の指導にあてる労力の大きさをあらわす可処分時間と考え、教員の学生に対する指導が、研究にどれほど影響を及ぼすかを表すものである。医学系教員数一人あたりの大学院生数は、大学院生が研究を支えていると考えられる。外部資金と科学研究費の合計に占める科学研究費の割合は、Ⅱで述べた通り、競争的に配分される科学研究費の割合が、研究の効率性にどのような影響を与えているかを分析するために用いた。医学系教員一人あたりの科学研究費採択件数は、教員一人がもつ科学研究費での研究数を表す指標である。また、図書館蔵書数は、研究を行うための設備が十分に整っているかを表すものであり、研究を行う際に必要な論文や文献などが手近に入ることで、どれだけ効率性が上がるかを分析する。論文被引用回数は、各大学の論文一つあたりにどれだけその論文が引用されているかを表すものであり、論文の質を示すものである。ダミー変数に関しては、教員の公募制を採用している大学は、教員に対して競争原理が働いていると考えられるため、教員の競争がどれだけ研究活動の効率性に影響を及ぼすかを分析するためにダミー変数として入れた。また、大学の種別が、効率値に影響を与える要因となっているのかをみるために、旧帝国大学ダミー、旧帝国大学以外の国立大学ダミー、私立大学ダミーを用いた。尚、データの基本統計量は表6に示してある。
4 分析結果と考察
まず、DEAによる大学の効率性分析に関して、CCR、CCRO、BCC、BCCOモデルによって求められた各大学の効率値を高い順に並べたものを図6~8に示した。CCR、CCROモデルで効率値や順位に変化がみられないことからCCRとCCROモデルのグラフはひとつのものとしてみる。図6~8から言えることは、また、旧帝国大学は効率値の高いところにまとまってみられ、私立大学においては効率的なものもあるが、ほとんどが効率値の低いところにまとまっていることがわかる。旧帝国大学以外の国立大学はグラフの中ほどに集まっており、公立大学においては平均的に散らばっている。次に、それぞれのモデルで非効率な大学の改善案をみて、旧帝国大学、旧帝国大学以外の国立大学、公立大学、私立大学に特徴の有無があるかをみていくことにする。
表4、表5には、CCR、CCRO、BCC、BCCOモデルの結果をもとに各大学の改善案を示している。例えば、CCRモデルにおける広島大学の改善案を見ると、インプットでは科学研究費、医学系教員数が入力過剰であるので53.7%減らし、アウトプットでは論文数に出力不足はなく、論文被引用数には出力不足があるので3.3%増加させることで、広島大学は効率的な大学となる。ただし、DEAの説明でも触れたようにこれは改善案の一例であって、BCCモデルでは、これとは異なった改善案となっている。入力指向型の分析である表4を見ると、非効率な大学全体において科学研究費、医学系教員数の余剰がみられ、余剰の程度は両者ともほとんど同じとなっている。つまり、科学研究費も医学部系の教員数も同程度減らさねばならないといえる。一方、出力指向型の分析である表5見ると、論文数、論文被引用数の不足が非効率な大学全体でみられる。さらに、旧帝国大学を除く国立大学で、論文被引用数の不足のほうが論文数の不足より大きいという特徴がみられる。
続いて、Tobit回帰による効率性に与える要因分析の結果と考察を、CCR、CCRO、BCC、BCCOモデルそれぞれにおける効率値を被説明変数にとった場合について述べる。表7にTobit回帰分析の結果を示しているが、CCRとCCROモデルについては効率値が同じであるため、1つにまとめた。また、z値は、t値に相当するもので、通常の回帰分析で説明変数の係数が統計的に有意かどうかをみるのにt値を考えるが、Tobit回帰ではt値ではなくz値を用いる。
(1) CCR&CCROモデル
分析結果、モデルは次のように推定された。

このモデルに関して、10の説明変数のうち6つの説明変数で統計的に説明力をもつという結果が得られた(5%有意水準)。全補助金に占める科学研究費の割合、医学系教員数一人あたり図書館蔵書数、論文数に対する論文被引用回数については係数が正に働いている。一方、医学系教員一人あたりの医学系学生数、教員一人あたりの科学研究費採択件数、私立大学ダミーの係数は負に働いていることが分かる。
(2) BCCモデル
分析結果、モデルは次のように推定された。

このモデルに関して、10の説明変数のうち3つの説明変数で統計的に説明力をもつという結果が得られた(5%有意水準)。医学系教員一人あたり科学研究費採択件数のみ正に働いており、残り2つの全補助金に占める科学研究費の割合、私立大学ダミーの係数は負に働いている。
(3) BCCOモデル
分析結果、モデルは次のように推定された。

このモデルに関しては、10の説明変数のうち4つの説明変数で統計的に説明力をもつという結果が得られた(5%有意水準)。全補助金に占める科学研究費の割合、医学系教員数一人あたり図書館蔵書数、論文数に対する論文被引用回数については係数が正に働いている。医学系教員一人あたりの科学研究費採択件数では係数が負に働いている。
また、以上のそれぞれのモデルについてTobit回帰を用いるため、F検定と同様なWald Testを行う。帰無仮説は、

である。ここで
はそれぞれ、CCR&CCRO、BCC、BCCOモデルの係数である。CCR&CCROモデルの場合、BCCモデルの場合、BCCOモデルの場合のWald Testによって算出されたF値は、それぞれ、14.93017、11.15676、11.73919であり、自由度10、57のF分布5%限界値は2.00138であるので、有意水準5%でWald Testを行うとすべてのモデルにおいて帰無仮説は棄却される。つまり、10の説明変数全体においてもこのモデルは説明力をもつと言える。
Ⅵ まとめと政策提言
1 まとめ
大学における学術研究は、わが国の発展のためには必要不可欠である。国によるさまざまな科学技術振興策が行われているが、特に、国から配分される科学研究費は、大学の学術研究にとって非常に重要であるといえる。十分な資金を調達することができれば、最新の研究設備を整え、質の高い研究が可能となるからである。そこで我々は、大学の学術研究の要となる科学研究費と、その研究成果に着目した。科学研究費は効率的に配分されているといえるのだろうか、効率的に配分されていないとすれば、どこにその原因があるのか、そして、大学の生産効率を左右している要因が何であるのか、という問題意識をもった。
竹内の先行研究では、科学研究費は大学名や学閥といった研究能力とは関係のない要因によって決定されている恐れがあり、国立大学に過剰に配分されている科学研究費を減らし、その分を優秀な研究成果を出している私立大学へ、科学研究費をより多く配分するべきだという主張があった。
これらを踏まえ、我々はDEAとTobit回帰を用いて分析を行った。
まず、DEAにより効率的な大学と非効率な大学を分析したところ、旧帝国大学以外の国立大学と私立大学は非効率な傾向があり、特に私立大学の多くは非効率だという結果が得られた。公立大学では特に目立った特徴は見られなかった。また、入力指向型のBCCモデル及びCCRモデルによると、非効率な大学全体において、科学研究費、医学系教員数の余剰がみられ、科学研究費も医学部系教員数も同じくらい減らす必要があるという結果が出た。一方、出力指向型のBCCOモデル及びCCROモデルによると、論文数、論文被引用数の不足が非効率な大学全体でみられ、特に、旧帝国大学を除く国立大学では、論文被引用数の不足のほうが論文数の不足より大きいという特徴がみられた。つまり、旧帝国大学以外の国立大学においては、論文数を増やすことよりも論文の質の改善が求められるということであるといえる。
次に、Tobit回帰を用いて大学の生産効率性に与える要因分析を行った。分析の結果、大学の生産性の効率を上げる要因として、研究資金に占める科学研究費の割合、科学研究費採択件数、教員一人あたりの学生数、図書館蔵書数、論文被引用回数が説明力をもち、研究資金に占める科学研究費の割合、科学研究費採択件数、図書館蔵書数、論文被引用度は、増加するほど効率的となり、教員一人あたりの学生数は、減少するほど効率的になるという結果を得た。特に、科学研究費採択件数、論文被引用度、研究資金に占める科学研究費の割合に関しては、すべてのモデルにおいて、説明力を持つという結果が出ており、大学の生産効率性に及ぼす影響がより明確であると考えられる。
2 政策提言
(1) 研究側面の重視
DEAによる分析結果から、旧帝国大学では比較的効率的な傾向があり、旧帝国大学以外の国立大学や公立大学には目立った傾向はないが旧帝国大学に比べると効率値はかなり低く、とりわけ私立大学の多くが非効率的な傾向にあることがわかった。つまり、私立大学は配分された研究資金に見合った研究成果を残していないケー, スが多いことになる。また、CCRモデルによると、私立大学の教員の余剰は特に旧帝国大学と比べると大きいという結果が出た。これらの理由として、国や地方自治体による公的なバックアップがある国立大学や公立大学に比べ、私立大学は、国立大学や公立大学よりも自己調達しなければならない経営資金が多い。また、宣伝広告活動、校舎の整備、学生に手厚い教育を施すことなどをして、多くの生徒に入学してもらうことにより、大学が存続していくためには、教員が多く必要であると考えられるからである。つまり、私立大学としては研究成果を出すことも大切だが、それ以外に費やさねばならないコストが大きいため、大学の生産性という観点から見ると、非効率的であるという結果になったと考えられる。
また、教員一人あたりの学生数の増加が生産効率の悪化につながるというTobit回帰の結果からも、教員が実質的に受け持つことになる学生数が増えることは、教員の研究時間がその分減少することになるということが裏付けられる。大学は、教育機関でもあり、研究機関でもあるという2つの側面を持ち合わせる。特に、私立大学では、教育機関としての負担が大きいようにも思われる。しかし、大学は専門的な研究機関をすることができる貴重な場であり、産業界や経済界からも、新たな知識の発見と技術の向上について多大な期待が寄せられている。国は、科学研究費とは別に、私立大学の教育面などにおける運営上の補助金をより多く投入するなどして、私立大学の研究機関としての役割を支援する方策を考えることが、日本が国際競争の中で勝ち残っていくためには有益ではないかと考えられる。
(2) 研究環境の向上
Tobit回帰により、図書館蔵書数の増加が、大学の生産効率の向上につながるということがわかった。これは、学術研究のためには多くの資料や参考文献が必要であり、それらが容易に手に入る環境があることで、研究効率を上げられるからだと考えられる。大学は、書物を積極的に受け入れ、ウェブなどを利用して重要な資料や文献が簡単に手に入る環境整備、24時間いつでも利用可能な図書館の整備、大学での数多くの商用データベースと契約、電子ジャーナルの整備が必要であり、それらの環境が整備されれば、大学の生産性は向上すると考えられる。さらに、大学や国家間の壁を薄くし、さまざまな情報を、国内外を問わず多くの大学が共有できるためのシステムや環境作りを進めていく必要もあるであろう。
(3) 科学研究費の望ましい配分の模索と研究成果の評価
科学研究費の金額は年々増加傾向にあるとはいえ、配分可能な科学研究費の総額には限りがあり、それを多くの研究課題に対して配分するということは、それだけ一つの研究課題に配分される科学研究費の金額は減少してしまうということになる。つまり、大学からの申請を数多く採択することは、一見、数多くの研究ができ研究成果もあげられるのかと考えられるが、その一方で、科学研究費の分散につながり、一つの研究に使用することができる科学研究費が少なくなるために、かえって非効率になると考えられる。採択件数をむやみに増やすのではなく、採択する研究課題を、熟考の上厳選しなくてはいけないということにつながる。また、研究資金における科学研究費の割合の増加が、大学の生産性効率の向上につながるという結果も出た。その背景には、科学研究費は国に研究費の申請を行い、審査後、その中から採択されたものだけに科学研究費が配分されるという経緯があるため、科学研究費の取得の時点で外部資金よりも目的が明確で競争的要因が強く働いているといえる。つまり科学研究費については、研究課題の計画の段階で競争的原理を働かせることができ、効率値をいっそう上げることにつながるといえる。この結果をふまえると、行政改革を進める日本政府が省庁再編にともなう行政スリム化や緊縮財政を進めているという流れに逆行することになるが、大学における研究水準の上昇や、効率的に研究成果をあげるといった観点から、さらには、国際競争に打ち勝つ観点からも、科学研究費の予算はよりいっそう増大しなければならないということになる。つまり、採択件数を減らし、科学研究費を投入する研究課題を絞って、厳選した研究課題には現在よりもっと集中的に科学研究費を投入する必要があると考えられる。
たしかに、科学研究費は幅広い研究に対して配分されるものであるところに良さがあり、失敗が成功の素という言葉もあるように、研究が大成するためには非効率な研究も中には必要とされるであろう。しかし、DEAによる分析により、科学研究費の配分について著しい改善の余地があるケースが多く見られた。このことは、科学研究費の配分に関して必要以上の無駄があることを示唆している。さらに、科学研究費をもらう資格のない研究者に約2億5000万円の科学研究費が配分されていたという事実もあった。国の予算の一部である科学研究費を支えているのは納税者であり、大学の研究者は、研究成果を積極的に社会に還元し、科学研究費を有効利用するための努力を怠ってはならないであろう。国は、科学研究費の配分の審査を慎重に行い、研究費が配分された大学は、研究成果の公表を徹底し、また、研究課題ごとに第三者によるその内容、成果の評価をすることも必要であろう。こうして、質の高い研究成果を出した大学を積極的に評価したり、今後の科学研究費の配分をいっそう増やしたりすれば、科学研究費の追跡調査ができると同時に、大学側に研究成果をあげるためのインセンティブをあげることもできるのではないだろうか。
(4) 論文の質の向上
最後に、DEAの分析結果の大きな特徴のひとつとして、多くの大学で論文被引用数の向上の余地があるという結果が出され、Tobit回帰分析においても、論文被引用度が上がれば、効率値が上がるという結果を得た。日本の大学において、一つ一つの論文の質を向上させることが、効率性の向上につながるということが考えられる。つまり、論文をいくら出しても、それは見た目での成果であり、論文が引用され、活用されてこそ、本当の成果と言えるのではないであろうか。さらに、論文の質の向上は、世界各国の大学や研究機関から注目され、世界各国から優秀な人材が集まるという相乗効果をもたらし、国際競争力をさらに向上させることにつながるであろう。
3 むすび
今までみてきたように、研究面において、日本の大学や大学を取り巻く環境、国や政府のあり方については、まだまだ改善の余地が多くあるように思われる。今回の分析の結果からも、医学系分野においては、研究資金面、研究環境面の両面で、改善することが必要であることがわかった。国際競争が進む中、研究資金面、研究環境面の両面で改善を行うことは必須であり、そうすることによって、研究の質は向上し、国際競争力も向上すると考えられる。また、大学での研究は、わが国の将来の発展を担っており、今後、国をあげて学術研究をいっそう促進することが必要であろう。さらに、近年では、大学と企業とが連携するTLOも活発に行われている。今後は、大学側、国側、企業側の3つが今まで以上に協力し合い、更なる知識の創造と生産性の向上を目指していくことによって、日本の大学の技術力が、さらには、日本全体の技術力が、世界を牽引していくことができるであろう。
参考文献
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